箱根外輪山を走る

新製品〈DRY WOOL TANK〉のテストのために、箱根外輪山へ赴いた。

  • Photograph:HERENESS
  • Text:HERENESS

箱根と聞いて何を思い浮かべるだろうか。一般的には東京から程よい距離にある良質な温泉リゾートとなるだろうし、ランナーならば箱根駅伝の盛り上がりが頭に浮かぶだろう。そして、もしあなたがトレイルランナーならば、それは箱根外輪山一周トレイルであるに違いない。

 

良質な温泉や大涌谷が噴き上げる白煙は、箱根が火山であることの証だ。そして峻険な箱根の外輪山は、繰り返された噴火によって形成された凹形のカルデラの縁にあたる。地形図を見れば、東西8km、南北12kmにわたるその巨大さがよくわかる。そして、この外輪山を一周すると約50km、累積標高差3000mとなる。どうだろう、トレイルランナーにとっては挑戦しがいのあるコースに見えないだろうか。なかには、自分が走った箱根をぐるりと取り囲むGPSの軌跡を見て、にんまりと達成感を味わった方もいるだろう。

 


今回、〈HERENESS〉の新製品であるDRY WOOL TANKのテストのために、この箱根外輪山に赴いた。実際に着用して走ってくれたのは〈HERENESS〉では度々モデルをお願いしている矢崎智也さん。〈HERENESS〉とも志を同じくするリジェネラティブ・コーヒーを提供する〈OVERVIEW COFFEE〉で働きながら、自分らしいペースでトレイルランニングを楽しんでいる。スポーツ・ライフワーク・バランスを絶妙に保ちながらも実力は折り紙つきで、2022年の「OSJ KOUMI 100」では、堂々の2位に輝いた。

「トレイルランニングをはじめて間もない頃、仲間と一緒に来て以来の箱根です。その時は疲労困憊で半分で終えましたが、体力はついたし良い塩梅で距離感覚も狂ってきたので、今回は楽に走り切ることができると思います」


箱根外輪山一周は、箱根湯本を起点にして時計回りを選ぶか、反時計回りを選ぶかでコースのフィーリングも違ってくる。比較的アップダウンのある、明星ヶ岳、明神ヶ岳、金時山の稜線を前半に済ませてしまう反時計回りの方が、取り組みやすいという意見が多いようだ。標準的なコースタイムは23時間。一人前のトレイルランナーと位置付けられるタイムでも10時間はかかるから、朝暗いうちからヘッドライトを灯してスタートするのが一般的だ。

しかしそこは俊足の矢崎さんということで箱根に集合したのは午前10時、もう陽は高く登っていた。早速、〈HERENESSS〉のDRY WOOL TANKを着用してもらい、箱根湯本駅をスタートする。

どこまでも続く稜線を走る

湯本駅からは激坂のロードでスタートするが、矢崎さんは淡々と歩みを進める。阿弥陀寺の山門を潜ったらいよいよトレイルだ。しばらくはつづら折れのシングルトラックで稜線まで上り詰める。一度ロードに出るが、およそ11km地点の明星ヶ岳を超えるまでは標高差1000m以上をひたすらに登っていく。箱根外輪にトライするには暑すぎる7月だから、ここは大量に汗をかくシチュエーション。しかし DRY WOOL TANKは、ウールの吸湿効果で身体から吸い上げた汗を、混紡した再生ポリエステルが適度に放湿して肌触りをドライに保ってくれる。とはいえ、矢崎さんのログを見ると心拍数は限りなく安定している。登りにもかかわらずほぼ150bpmを超えることはない。

「トレイルランニングを始めた時の楽しかった思い出やら、これから控えるレースのこと、日々のランニングで変化していく自分の身体を確かめながら走っていると、時間はすぐに経過します。気分転換に音楽も聴きました。

普段、ロードでも、峠でも、山を走る時も、日常と同じような気分でいたいと思っています。呼吸をすることを意識しないように、身体だけ勝手に動いて進んでいる状態になると一番良いです。山を走っているけど、最寄り駅まで歩いてるような感覚だったり、家で本を読んでるような感覚だったり、動いていることを意識しなくなると最高です。

この日の箱根外輪山一周は、まさにそんな感覚で最後まで気持ちよく移動できました。気負わず、日常の延長で走りたい時は〈HERENESS〉の服が最適です。コンセプトへの共感や、素材、着心地などいい面は色々あるんですが、着たいものを着ている時が一番気分がいい、それに尽きると思っています」


明星ヶ岳を超えて、トレイルが本格的な下りに差し掛かると、目指す金時山の向こうに富士山を望むことができる。箱根外輪山らしい風景だ。

ほとんどハイカーに会うことのない箱根外輪山だが、金時山の周辺だけは別。初心者にも優しい金時山は子ども連れを含む多くの登山客で賑わう。譲り合いながら注意して進んでいく。金時山を越えたら、芦ノ湖の北側を取り囲む山域に入る。ここは、なだらかな走れるトレイルではあるものの、細かなアップダウンが意外に身体に応える。疲労が蓄積してくるのもこのあたりだろう。ここをパスすれば下り基調だから、踏ん張りどころといえる。


およそ25km地点、ちょうどコースの真ん中にあたる芦ノ湖展望公園でランデブーした矢崎さんは満面の笑顔で疲れた様子も見せない。だが実は、前々日に野沢温泉で65kmのレース『The 4100D』に出場したばかり。今回の箱根外輪山一周は、いわゆる“バック・トゥー・バック”と呼ばれる、疲労を蓄積した状態で高強度のトレーニングを重ねるスタイルといえる。それにも関わらず、ここに到達したのは14時すぎ。登り基調の前半を約4時間でクリアするという驚異的なスピードだ。


湖畔のオアシスからゴールへ

次に矢崎さんと出会えたのは芦ノ湖畔のコンビニエンスストア。ここまで山中を40km走ってきたランナーにとって、オアシスのような場所だ。



矢崎さんもここでようやく大休憩。ここまでは、体脂肪を使うことを意識して補給食も最低限の量で進んできたという。それも平均心拍150bpm以下を常に意識しながら走っているからこそできること。最終的な矢崎さんのログを見て驚いたが、登りも下りも心拍が安定していて120~150bpmの間に収まっていた。コンビニエイドではしっかりした食事と水分を摂って、最後の下りセクションに向けて美しい西陽が射すなかを飛び出して行った。



そしてゴールの箱根湯本に姿を表したのは、ライトを灯すぎりぎりの時間。結局、矢崎さんは午前10時にスタートして、一度もライトを使うことなくゴールした。


「レース後のトレーニングとしては、うまくいきました。上出来だったと思います」そう語る表情は、箱根外輪をぐるりと一周した満足感に溢れていた。

最後に改めてDRY WOOL TANKの感想を聞いた。

「実は袖がないことへの落ち着きが悪くて、タンクトップを着て走ったのは今回が初めて。想像していたよりも身体に馴染んで、この日以来多用しています。袖がないってこんなに涼しかったとは。

ウール100%のTシャツを着てレースに出たこともあるんですが、着心地が良い反面吸水して重くなります。とは言え、あまり汗を掻かないので気にしないんですが、ウールと再生ポリエステルを交撚したこの素材だとさらに気にならない。素材の強度も高まってハードなアクティビティでも安心して着用できます。登山やファストハイクのように荷物が多くなっても、ザック周辺の摩耗が気にならなくなったことも嬉しい。1枚あると長く付き合えそうです」