言葉では表せないもの|環ROY(ラッパー)

ラップに限らずパフォーミングアーツも含めた表現に向かう環ROYに、創作のプロセスを聞いた。 
  • Photograph:Takeshi Abe
  • Text:HERENESS

ROYは多面体だ。もちろん音葉を駆使するラッパーとして知られているが、ビートメイクはもちろん近年は身体を使ったパーフォーミングアーツにも精力的だ。そして彼はどんな表現を選んだとしても、その本質に迫るべく深く掘り下げようと試みる。表現し続けることが重要で、そのための手段は自由に変化する。もしかしたら、そんなところに環ROYの“あるが まま”があるのかも知れない。  

身体を動かす表現に出合う 

そうした環ROYの創作のプロセスを覗くケーススタディとして、今回は〈HERENESS〉とも関係する身体を使ったパフォーマンスにフォーカスして話を聞いてみた。そもそもラッパーである環ROYが、なぜパフォーミングアーツに取り組むことになったのだろうか。まずその経緯を聞いてみる。それは友人でもある蓮沼執太の主宰するプロジェクト〈蓮沼執太フィル〉のアルバム『時が奏でる』(2014年)に参加したことがきっかけだったという。

「〈蓮沼執太フィル〉では、自分がこれまで活動してきたクラブやライブハウス野外フェスなどの場所ではなく、ギャラリーや劇場、美術館といった場所で公演する機会がとても多かったんです。今まで自分がほとんど行ったことがないような場所に行くことが増えた。行ってみると興味が湧いて調べたりしますよね。旅行みたいな感じです。それで美術や舞台芸術に関心を持つようになっていったという感じです 

舞台芸術に興味を持った環ROYは、2015年、彩の国さいたま芸術劇場で行われた島地保武と酒井はなによるダンスユニット〈Altneu(アルトノイ)〉の公演を観にいくことになる。そこで公演の音楽を担当していた蓮沼執太の紹介で、島地保武と出会った。島地は、先進的な振付家ウィリアム・フォーサイスがドイツで主宰する〈ザ・フォーサイス・カンパニー〉に2006年から所属していたが、そこを離れて日本に帰国したばかりだった。

「いわゆる((コンテンポラリーダンス))に取り組む、というよりも、ダンス作品の観念的な拡張に関心を持っていたのが当時の島地さんでした。帰国後、彼が日本で作品を制作しようとした時、その関心をすぐに共有し協働できるダンサーがあまり思いつかなかったようで、なんならダンサー以外と作品を作ったらいいんじゃないかって思っていたそうです。そこで僕とたまたま出会って、一緒にやってみませんかと誘って頂いたのが始まりです」 

“作品の作り方”から作っていく 

では、日本の音楽シーンで特異な立ち位置にあるラッパーとオルタナティブなダンサーは、いかにして作品を作り上げていったのだろう。 

「どうやって作ればいいのかっていうのはわからないんで、ふたりとも。どう作っていったら作れるか、という作り方から作る。そこからでした。最初は対話をしている時間がかなり長くて、お互いが志向する創造とはどういうものなのかを共有するところから始まったように思います。ジャンルが違うとそういうことにすごく時間がかかるんだなと強く印象に残っています」 

島地が所属していた〈ザ・フォーサイス・カンパニー〉は、従来の振付けに基づくダンスよりも、インプロビゼーション(即興)に重きを置いている。ダンサーたちに具体的な振り付けを指示するのではなく、“タスク”と呼ばれるコンセプトやインストラクションを提供し、それを基にダンサーたちが自らの想像力を駆使して即興のパフォーマンスを創出することを促しているのだ。環ROYと島地保武の協働もそのように進んだという。 

「例えば『あなたは台風の中、部屋から外に出て雨を感じたくなった』みたいなシチュエーションを即興してとか、また別の人には異なったコンセプト、インストラクションが与えられて、それを創造的にどう構築していくかみたいなことを重視しているのが島地さんの在籍していた〈ザ・フォーサイス・カンパニー〉でした。そんな感じで彼が、そういった投げかけを僕にしてくれて、こっちは自分なりにそれを処理していく。そのコンセプトだと自分は気持ち悪いとか、そういうことを言葉で伝えたりしながら調整していって、お互いに違和感を持たない状態になったら次に進んでいくという繰り返しでした」 

このプロセスの果てに生まれ 、愛知県芸術劇場で初演されたのが『ありか』であり、これまでに30回以上の再演を行ってきたという。さらに新作『あいのて』が昨年 、Dance Base Yokohamaで創作され、愛知と東京で発表された。こうした島地とのコラボレーションを経て、環ROYはあることに気がつく。それは、彼が足場とするポピュラーミュージックの領域でのパフォーマンスは、意外と定型化されているということだった。

 

「島地さんとの作品は対面式の舞台ではなかったので、鑑賞者の視点が360度にあって、距離や関係性が結構変化します。パフォーマーとしての自分、鑑賞者、会場や空間について意識しながらパフォーマンスすることになる。また、ステージの形状をどうするかとか、照明をどうしたらいいのかとか、音楽はどうするのかとか、その空間でどう動くべきなのかということ自体が作品の重要な要素になっていきます。これまで自分がやってきたポピュラーミュージックは、録音作品を舞台上で再現する、が主なテーマだったため、あまりそういったことを考える機会がなかったように思います。だから大きな学びになりました 

これは環ROYが、ジャンルを軽やかに飛び越えて創作を行うことで新しい視点を得て、それをまた別の表現に持ち込み、活かしていることがよくわかるエピソードだ。 

言葉では表せないもの 

そんな環ROYに、HERENESSの〈SMOOTH WOOL T-SHIRT〉の着心地について聞いてみた。 

「軽くて着てる感が薄いですよね、普通の木綿のTシャツより明らかに、重さが、ない。でもテキストで着心地いいって言われても分かんないですよね“着心地いい”って、試しに着てもらわないと“着心地いい”ことを伝えることはできないなと思いました」 

言葉は不確かな伝達手段で、端的な言葉だけで繊細な感覚を伝えることはとても難しい。島地保武とのコラボレーションにおいても、長い対話を重ねながらも言葉だけで何かを折り合うということはなかったという。 

「(言葉を通して)こういうふうに行こうとはならないですね。それでは言語化できちゃってるんで。言語化できない感じのまま行く。(身体を)動かさないと作品にならない」 

言葉を駆使してきたラッパーだからこそ、言葉による表現と言葉の外側にある表現に自覚的な環ROY。最近は自宅をスタジオ化し、ライフワークとしての録音芸術を掘り下げているという彼の次の表現が益々楽しみになった。 

〈着用アイテム〉
身長:170cm
SMOOTH WOOL T-SHIRT(UNISEX) Size:M
UNDERCURRENT JACKET Size:M
UNDERCURRENT PANTS Size:M